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東京地方裁判所 昭和27年(行モ)42号 決定

東京都港区新橋六丁目三十三番地

双葉美術印刷株式会社

申立人

石塚芳雄

右申立代理人

真野稔

柴田博

東京都台東区北稲荷町六十二番地

相手方

下谷税務署長

永井岩

右当事者間昭和二十七年(行モ)第四十二号公売処分停止命令申請事件につき当裁判所は申立人が申立た公売処分執行停止の申立を相当と認めて次の通り決定する。

主文

別紙物件目録記載の物件につき被申立人が同盟印刷株式会社に対する国税徴収のため昭和二十七年四月十二日にした差押にもとずく公売処分はこれを停止する。

(裁判官 新村義広)

物件目録

第一、東京都台東区車坂町四十八番地

三興印刷株式会社工場内所在

オフセツト印刷機 四六全版 壱台

第二、同都港区芝新橋六丁目三十二番地

双葉美術印刷株式会社工場内所在

オフセツト印刷機 菊全版 壱台

(以上)

(参考)

1 公売処分停止命令申請

東京都港区新橋六丁目三十三番地

双葉美術印刷株式会社内

申請人 石塚芳雄

東京都千代田区有楽町一丁目八番地 国第ビル四階

右訴訟代理人弁護士

真野稔

柴田博

東京都台東区北稲荷町六十二番地

被申請人 下谷税務署長

永井岩

公売処分停止命令申請事件

申請の趣旨

別紙物件目録記載の物件につき、被申請人が申請外同盟印刷株式会社に対する国税徴収のため、昭和二十七年四月十二日にした差押にもとずく公売処分は御庁昭和二十七年( )第 号事件の本案判決確定するに至るまでこれを停止する。

との御裁判を求める。

申請の理由

一、被申請人は、申請外同盟印刷株式会社に対する国税徴収のため、昭和二十七年四月十二日、別紙物件目録記載、第一、第二の物件につき、差押をなし、次で同年七月二十一日別紙物件目録記載第一の物件に対し、公売処分を開始した。

二、然れども右各物件は申請人石塚芳雄において、昭和二十七年二月七日申請外小川寿雄からこれを買受け、その所有権を取得したものである。

申請人が右各物件の所有権を取得した経緯は次の通りである。

即ち

申請人は、双葉美術印刷株式会社代表取締役であるが、昭和二十七年一月頃から、オフセツト印刷機の中古品を物色中の所、偶々知人の仲介で同年二月七日、申請外小川寿雄から本件オフセツト印刷機二台を代金八十五万円を以て、同日内金三十五万円を支払うこと、残金五十万円同年三月末日、物件引渡と同時に支払うとの約で買受け、同日右小川に対し金三十五万円を支払つた。

而して、右小川は右売買契約時、申請人に対し、本件印刷機は、申請外三興印刷株式会社に賃貸中であるが三月末までに返還を受けて引渡すと約したので、申請人は三月中に印刷機据付に必要な一切の準備を整へ、三月三十日同人に対し、残金五十万円を支払つた。然るに前記三興印刷株式会社が仕事の都合上、本件印刷機の引渡をしないため延引していたところ、同年四月十二日、被申請人がこれを前敍の如く差押えたのである。

三、而して、申請人は本件印刷機の引渡が延々となるので前記小川に屡々その引渡を迫つていたところ、右差押処分の事実を聞かされ、驚いて同人が本件印刷機の所有権を取得した経緯を尋ねたところ、その事情は次の通りである。

(一) 右小川は申請外同盟印刷株式会社代表取締役社長であつたが昭和二十五年始頃から、事実上会社の実権を剥奪され、会社業務は専務取締役菊地某、監査役白井某の専行するところとなり、単に同会社の一外交員として勤務するにすぎない状態であつた。

(二) そして同会社は、営業不振で、他の借金を返済するため、昭和二十五年十一月頃、申請外綿谷某から金三十二万円を借受け、本件印刷機及び会社建物に売渡担保を設定して昭和二十五年十月十二日東京簡易裁判所において裁判上の和解をなした。

(三) 然るに、同会社は右綿谷に対する債務を支払うことができず、本件印刷機は右綿谷の所有に帰し、更に、同人から申請外原ひさに譲渡されたのである。

而して、前記小川は元一印刷職工より身を起し、個人企業として印刷業を営んでいたのであるが、前記菊地某等の勧めによつて株式会社形態としたところ、会社経営に晦かつたため、右菊地等に事実上会社を奪取されてしまつたので、改めて自力を以て印刷業を始めようと考へ、同人所有にかかる東京都台東区車坂町四十八番地所在工場建物延約百六坪を担保として前記綿谷から金員を借受けて前記原から本件印刷機を買受けたが、右綿谷に対する債務弁済できず右約百六坪の工場建物も担保流れにより右綿谷に取得されてしまつたのである。

四、以上の次第で本件印刷機の所有者が申請人であることは極めて明白であるから、被申請人が前記同盟印刷株式会社に対する国税滞納処分により右物件に対し、差押、公売処分をしたのは、違法であるから御庁に前記差押、並に公売処分の取消の訴を提起した(御庁昭和二十七( )第 号)。

ところで、前敍の如く、既に別紙物件目録記載第一の物件については、昭和二十七年七月二十一日公売処分が開始されている次第で、いつ右公売処分が終了するやも知れず又、同右目録記載第二の物件についても公売処分がなされる危険性切迫しており、若しこれら公売処分が完了するときは、申請人は回復すべからざる損害を生ずる虞が極めて大であるから本申請に及ぶ。

疏明方法

一、疏第一、第二号証(差押調書謄本、落札決定通知書)を以て、本件印刷機に対する差押及び公売処分の事実を疏明し

二、疏第三、第四号証(売買契約書、領収証)を以て申請人が本件印刷機を買受け、代金完済の上所有権を取得した事実を疏明し

三、疏第五(売買契約書)、疏第六(覚書)、疏第七(領収書)を以て申請外小川が同原から本件印刷機を買受けた事実を疏明し

四、疏第八号証(和解調書正本)を以て、本件印刷機の所有権が申請外同盟印刷株式会社から申請外綿谷に移転し、被申請人が右申請外会社に対する国税徴収のため、本件印刷機に差押、公売処分をなし得ないものである事実を疏明する。

附属書類

一、疏第一乃至第九号証(写) 各一通

一、委任状 一通

右申請致します

昭和二十七年七月二十五日

右申請人代理人

真野稔

柴田博

東京地方裁判所 御中

物件目録

第一、東京都台東区車坂町四十八番地

三興印刷株式会社工場内所在

オフセツト印刷機 四六全版 壱台

第二、同都港区芝新橋六丁目三十二番地

双葉美術印刷株式会社工場内所在

オフセツト印刷機 菊全版 壱台 (以上)

2 上申書

申請人 石塚芳雄

被申請人 下谷税務署長

右当事者間の公売処分停止命令申請事件について被申請人は次のとおり上申します。

一、申請人は被申請人下谷税務署長が同盟印刷株式会社の滞納税金について昭和二十七年七月二十一日なした公買処分の執行停止を申立て御庁は昭和二十七年七月二十八日右申請を認容する決定をされましたが

一 該決定の物件目録第一の印刷機については申請人より差押財産取戻の請求があつたので既に昭和二十七年七月二十四日本件公売処分を取り消した。従つて執行停止の目的たる公売処分は存在しない。

二 該決定の物件目録第二の印刷機について被申請人はいまだ公売処分をしたことはない。従つて執行停止の目的たる公売処分はこれ亦存在しない。

以上のように本件公売処分の執行停止決定はその必要がないから、速やかに職権をもつて取り消されますようここに上申に及びます。

追つて本件公売処分停止命令申請事件について御庁より求意見書の送達を受けましたが、被申請人の事務齟齬のため書類の入手が遅れために期間を徒過したことを申し添えます。

疎明方法

疎第一号(売却決定取消決議書写)

疎第二号(落札保証金還付受領証写)

昭和二十七年七月三十一日

被申請人

下谷税務署長

東京地方裁判所民事第二部 御中

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